1、身体に合った施術院と出会う
2、効く治療は身体が覚えている
3、初めてのお灸
4、先生も肩こりの持ち主だった
1、身体に合った施術院と出会う
前回の、患った期間と同じ期間治療しなければ治らないと言った施術院に行かなくなったとはいえ、体は治療を渇望していました。
私は、他の鍼の治療院を探し回りました。
電話口に出た先生の反応はさまざまでした。
「ああ、大丈夫ですよ。それなら、鍼で治りますよ」
と、完治を請け負う先生や、
「診てみないと分からないので、とりあえず、1度来てください」
という、慎重派もおられました。
電話では、その先生の治療が本当に効くのか判断しかねました。
片っ端から、鍼医者を回りました。
何軒か回った後、やっと自分に合う治療院を見つけることができました。
その施術院は最初に行ったところのように、待合室も治療室も畳敷きでしたが、掃除は行き届いて清潔感がありました。そして、母屋は奥の別棟にあり、生活感が漂っているようなところではありませんでした。
先生は60歳をいくらか過ぎたくらいの小太りの人で、いかにも経験豊富という感じがしましたし、何より人を和ませる雰囲気がありました。
問診票はありませんでしたが、症状については詳しく聞いてくれました。時々は先生の方から、質問もありました。
治療の前に、先生は私の体を掴んだり、さすったりしました。
「よくこんな体で生きてきましたね」
と先生は溜息交じりに言いました。
「首が固まってしまって、頭に血液が回っていませんね。これじゃ、勉強どころじゃないでしょ」
実際、常に頭に霞がかかったようにぼんやりし、本に向かうと涙があふれて活字はちっとも頭に入ってこないし、体全体で活字を拒否するようになっていました。
2、効く治療は、身体が覚えている
効く鍼はコリを突き刺すように、分け入るようにはいってきます。先生は刺した鍼を回したり、グリグリ動かすことによって、より刺激を高めていきました。
「あ、そこそこ。そこがつらいねん。そこ、効くーー」と、思わず声を上げてしまいそうになりました。
しかし、先生は私の一番つらい首や肩や腰には少し鍼を刺しただけで、コリの自覚症状のない場所に治療が移っていきました。
「もっと、首や肩に刺してほしいのに」と、その点は少しものたりなく、不満にも感じました。
トリガーポイントという名称を知ったのは、ずっと後になってからでした。
3、初めてのお灸
先生は鍼を刺すだけでなく、刺した鍼にもぐさを巻き付け、それに火をつけて鍼と灸を合わせた治療も行いました。
幼いころから、母親の背中のお灸後のケロイドを見ていましたので、もぐさの煙が上がってくると緊張しましたが、程よい暖かさで、コリがほぐれて身体全体が弛緩していくのを感じました。
4、先生も肩こりの持ち主だった
何度も通っているうと、気安さも増してきます。施術中にも雑談をするようになりました。
「実は私も若い頃、肩こりで苦しみましてね。勉強どころではなくて、大学を休学して日本中を放浪しながらいろいろな療法を試しました。
どれも、効かなくてね。
そんな時、城崎温泉で息抜きに来ていた鍼の先生に出会ったのですわ」
「つらさを訴えると、『診てみましょう』と、保養中にかかわらず、施術してくださったんですよ。それで随分楽になりましてね。
その先生の腕にも人柄にも惚れ込んで、弟子入りを願い出たんです。
先生が宿を引き払うとき、出雲までついて行って。そこの施術所で、住み込みの書生のような、患者のような生活をしながら、治してもらったんですわ」
初めて聞く先生の昔話でした。