再びの吸玉(カッピング)
1、 カッピング治療を勧められる
2、 治療を断るーー揺らぐ先生との信頼
3、 通常のカッピングは出血などしない
4、 カッピング治療を受ける決心
1、カッピング治療を勧められる
半身不随を治そうと必死になって駆けずり回っているうちに、親身になってくれる、腕のいい鍼灸院に出合うことができました。
【二度と、半身不随になるのはごめんです】
楽になっていくのが実感できるので、その鍼灸師に頼り切りでした。
しかし、2ヵ月ほど通ったある日、先生は思いがけないことを言ったのです。
「あなたの肩こりを治すには、この首のコブを取ることから始めなくてはいけません。いつも首の後ろに荷物を背負っている訳ですから。このままでは治療よりも負担が大きすぎて、すぐコッてしまいます」
私は「もっと、効果のある治療があるのか」と、心躍らせて次の言葉を待ちました。
「東洋医学では汚血といいますが、このコブによって、より血液の循環が悪くなり、血が滞っています。吸玉治療またはカッピリング治療というのがありまして、……」
2、治療を断るーー揺らぐ先生との信頼
ガッカリしました。
私は憮然として、先生の言葉をさえぎりました。
「先生、その治療ならやったことがあります。あっちこっちを切りまくって、血を吸いだすのでしょう。私はその治療によって、貧血になりました。その治療は嫌です」
先生は以前に行った治療について、詳しく聞いてきました。
「それは乱暴ですね。それをやったのは、鍼灸師でもなければ医師でもないんじゃないですか?」
「それはそうです。人からの口づてで、行ったところです。農業のかたわらに、患者が来たときだけ治療していました」
「実はね、鍼灸師は人の体を切ることができないし、血を取ることもできないのです。鍼灸師にできるカッピングは、皮膚にカップを当て、真空にして血液の循環を促すことだけです」
「でもね、私は笹井さんの場合は、少し汚血を取ったほうがコブを小さくする早道だと思うんです。
懇意にしている医者が普通の診療だけでなく、カッピング治療もやっているんです」
私自身、コブのことは気にしていました。
首の後ろを触ると、肉の上にもう一つ肉の塊が乗ったようになっています。面と向かっては言われないものの、「ヘンな病気持ちなんじゃないか」と他人に思われていることも知っていました。
でも、吸玉と聞くだけで、前の治療を思い出して、身震いしました
。
「どうしても」と勧めるならば、せっかく見つけた私の身体に合った鍼灸院ですが、もう来なくてもよいとも考えました。
3、通常のカッピングは出血などしない
「いや、無理にとは言いません。その治療と鍼灸とを併用すれば早くよくなると思っただけです。どの治療を選ぶのかは、あくまでも患者さんですから」
いつもなら、治療が終わると軽い足取りで帰路につくのですが、その日は胸にモヤモヤを抱えたまま治療院を出ました。
「以前の吸玉治療は、血を取り過ぎたため、貧血になったと思い込んでいるが、果たしてそうなのか。他に原因があったのか」
専門家にそのことを相談したことはありませんでした。
「しょせんは素人判断ではないのか」
歩いていて少し冷静になってくると、自分の思いに自信が持てなくなってきました。
「先生は、出血を伴わない吸玉治療もあると言っていた。それなら、鍼灸師の自分でもできると」
胸の内で、様々な考えが交差しました。
4、カッピング治療を受ける決心
「いやいや、やっぱり吸玉は止そう」
「鍼灸によって確かにましにはなってきている。けど、それは2日に1回、間が開いても3日に1回通っているからだ。1週間はガマンできない」
その時、「就職したら、とてもこんな頻繫に治療はできない」という考えが頭をかすめました。
「早くこの状態から抜け出さねば」と、焦りもしていました。
しばらくして、まずは、出血を伴わないカッピング治療を先生に申し出ておりました。