成績ガタ落ち
勉強をほっぽり出して、2か月がたちました。
ある試験のとき、選択問題の場合は問題も読まないで、鉛筆を立てて倒れた方を選びました。
試験中、カタンカタンと繰り返すものですから、隣の席の人から、「お前、なにやってんね。試験中、うるさいわ」と、注意されたました。一生懸命頭を絞っているのに、横で耳ざわりな音を立てられて、さぞかし迷惑だったのでしょう。
その試験の結果は推して知るべしで、担任の先生が家にやってきて「何でこんなに成績が急に落ちたのでしょう。学校では特段変わったことは見受けられないのですが、お母さんがお気づきのことは何かないでしょうか?」と、母親にたずねました。
母親は曖昧にごまかし、とりあえずは先生に引き取ってもらいました。
当然、そのことは父親にも伝わったはずですが、両親とも何も言いませんでした。母親は、また私が荒れるのを恐れたからかもしれません。
肩叩きは、より肩コリを招く
あいかわらず毎日、母親に例の松の瘤で首や肩を叩いてもらっていたのですが、1時間も、1時間半も、時には2時間近くも叩き続けるため、ときどき居眠りをしました。そして、目標を失った松の瘤は、私の頭に落ちてきました。その度に、私は母親を怒鳴りつけました。
見かねた姉が「私が代わる」と言って、それからは私の肩を叩く役は、姉に移りました。
しかし私はその頃、肩を叩くことがそれほど効果的な対処方法ではないことが分かっていました。
人間の体は、外部から力を加え続けると、それに抵抗しようとして固くなります。それは、スポーツ選手や武道家が体を鍛えるのと同じことです。
私は、肩を叩いてもらった直後でもスッキリすることはなくなっていきました。
しかし、片田舎の情報も医療知識もない私たちが、医師やマッサージ師が根本的に治せないのに、適切な対処方法が見つかるはずもありませんでした。
首筋に大きなコブができる
姉の仕事は、それからもずっと続きました。
しかし、姉の仕事は突然に終わりがきました。それは、私が高校に入った頃でした。首筋がコブのように膨らんできたのです。制服は、中学も高校も学生服でした。中学の後半には詰襟のフックが止まらなくなりました。そして、高校生になったころには首筋のコブが襟からはみ出し、隠し切れないほどに大きくなっていました。
私の住んでいたのは市でしたが、それは昔の村単位が統合されてできた市でした。隣近所は昔から住んでいた人ばかりで、大人も子供も全員が顔なじみでした。
近所のおばちゃんの一人が「ねえ、あんたとこの宏ちゃん、首にコブができているね。なんかの病気とちがう?病院で診てもらった方がいいのと違うの」
そういうことは、当人には一番遅く伝わるので、おばさんたちの立ち話のネタになっていたようでした。
それ以来、母親も姉も、私の肩叩きを拒否してしまいました。私が頼んでも、「あかん。取り返しのつかんことになる。あんたの首は誰が見ても異常や。これ以上、叩かれへん」
私は泣きそうになりました。効果的な対処方法でない(よりコリをひどくすること)とはいえ、経済的にも時間的にも毎日マッサージ師のところに通うことができない私の、毎日手軽にやってもらえるただ一つの対処方法を取り上げられてしまったのです。