こんにちは、笹井 宏です。
今回は、治療院から追い出された話をしようと思います。
5年程前になりますが、自宅に1枚にチラシが入っていました。
【初回、治療費無料】の言葉に惹かれた訳ではありませんが、車で20分くらいの距離でした。
治療内容が私に向いていると思ったので、行ってみることにしました。
出迎えてくださったのは、まだ若い筋骨たくましい先生でした。
治療院を開設して間もないらしく、あちこちに開院祝いの花が置いてありました。
1、 特異な治療
2、 患者とシンクロする
3、 治療10分で追い出される
1、特異な治療
先生は、私に様々な方法を試していきました。
その1つに、先の丸いすりこ木のようなものを肩や首に当て、その棒の頭を木槌で叩くという治療がありました。
ちょうど、タガネを対象物に当て、その頭をハンマーで叩くところを想像していただければわかりやすいと思います。
私にとっては体験したことのない治療方法でした。
これが、筋肉の奥まで響き、なかなか気持ちがいいのです。
その後やっていただいた鍼灸の治療も、よく効きました。
それでちょっと通ってみることにしたのです。
他にも、金属のお椀のようなものを胃の上に伏せて、その上でお灸をしたりと、
必ずといっていいほど目新しい治療を体験しました。
2、患者とシンクロする
以前にも書きましたが、治療中私はあまりおしゃべりをしません。
サービスの一環と思っているのか、性格なのか、妙に馴れ馴れしく話してくる先生も嫌いです。
それでも、親しくなってくるとポツリポツリと互いの身の上話もするものです。
私は「こんな硬い身体を揉んだら、後の客を揉めなくなる」といってマッサージを拒否された治療院の話をしたりしました。
その話は、私が暗にマッサージを要求しているように、先生には聞こえたのかもしれません。
「ここではやりませんが、東京の治療院に勤めていた頃は、1日10人くらいも揉んだことがあります。くたくたに疲れましたが、達成感は半端ありませんでしたね。」
先生は思い出すように深いため息をついてから、続けました。
「けどね、他人の身体に触れるということは、同期するというか、
シンクロするというか、一生懸命治療しているうちに、患者さんの病気をもらってしまうこともあるのです。
それを知ってから、ある程度患者さんと距離を置くようにしています。
自分を守るためにね」
相手の病気をもらってしまうというのは、真実かどうかは別にして、理解はできました。
そして、この先生と何となく感じる距離感の理由が分かったように思いました。
3、治療10分で追い出される
そんなある日、いつものように治療に行ったとき、咳がでました。
その咳は止まらず、しばらく続きました。
その時です。唐突に先生は言いました。
「今日はここまでにします。帰ってください!」
一瞬、私は意味を理解できませんでした。まだ始まって10分ばかりしか経っていません。
「次回は来てもいいし、来なくてもいいです。とにかく、今日は帰ってください。」
取り付く島もありません。
「治療代は〇〇でいいですから、とにかく今日は帰ってください」
その料金は、正規の8割くらいでした。
『咳込んだだけで帰らせるのなら、料金はタダだろう。しかも、まだ10分しか経っていないのに』
と、思いましたが、相手の要求通りの料金を払って帰りました。
もちろん、気分はよくありません。
しかし、立場を置き換えてみたら、先生の言い分も分かるような気がしました。
『自分が治療室を営んでいるのなら、どんな病気を持っているかもしれない患者に触れるのは嫌だろうな。
もしも今診ている患者がいきなり咳込みかけたなら、自分だってあの先生と同じことをしていたかもしれないな。』
と思うと、腹の底から怒ることはできませんでした。
『でも、先刻承知でその道を選んだのだろう。プロだろう!』という気持ちもありました。
【私はお金で楽を買い、相手は自分の時間と技術を売っている。】
あの先生とは、所詮はそれだけの関係だったのです。